2004年に京都で発生した鳥インフルエンザ。当時鳥インフルエンザが日本で見つかったのは79年ぶりで、対応策が今ほど整備されておらず、不祥事もあってその養鶏場は潰れてしまいました。そんなニュースをみて、「なぜそんなことが起こるのか」と疑問に思ったことが私の研究の始まりです。私の研究は生産現場から食卓までのフードシステムを専門に取り扱っています。例えば鳥インフルエンザの話でいうと、なぜ起こるのかという病理的な観点ではなく、発生するとなぜ経営が潰れてしまうのかを生産現場、流通、消費現場のシステム全体を見ながら考えていきます。鳥インフルエンザを出したい養鶏場など一軒もありません。例えば一つの養鶏場で100万羽の鶏を飼い、卵1つ10円で販売すれば毎日1000万円のビジネスが動いています。それが一旦、止まってしまうと莫大な金額が動かなくなり、経営ができなくなる。そして、もし全羽入れ替えたとしても、再びその養鶏場から出荷したものが、流通にのることは非常に難しかったのが当時の状況でした。一つの養鶏場が、たった一度の病気で潰れてしまうことを防ぐためには、互いに助け合うフードシステムが必要なのです。
よくこういう事故が起こると、法律が悪いという話も出ますが、どれだけ厳しい法律を作っても守れないのでは意味がありません。商慣習と法律が補完しあえなければいけない。現場レベルで調査をしていくと、養鶏場同士が卵の規格をあわせて、事故が起こった時に、被害にあった養鶏場の代わりに補完しあう動きがあることがわかりました。現在では対策のノウハウも蓄積され、できるだけ流通をストップさせずにまん延をコントロールするようフードシステムも整いつつあります。一旦、スキャンダルが起こったものを消費者が選ばないということは、ある意味合理的な思考ではあります。だからこそ、すべてがバラ色に解決する方法はないかもしれません。ただ、何かが起こったときに、不安につけこんでお互いを食い荒らすようなフードシステムではなく、不安を煽らない状況で消費者にきちんと情報も合わせて届けて選択してもらえる。そして、養鶏場同士が潰し合うのではなく、お互いが持続的に経営していける。フードシステム全体から、どうすればより良くなれるかという点を見出していくことで、作る人も、買う人も安心できる食の流れをつくっていくことができます。
将来、食の事故やスキャンダルは減っていくかもしれませんが、なくなることはないでしょう。ただ、この研究が進めば、例え事故が起こったとしても、何度でも経営を持ち直すことができます。そして、事故やスキャンダルを糧に、フードシステムを見直し、安心で豊かな食を作り、届けるためのフードシステムをデザインできる社会につながると考えています。