
最先端の生命科学の知識と技術を学び、多彩な生命現象を題材とした研究に取り組むことで、「食」を支える「生命のしくみ」を分子レベルで理解し、幅広く応用できる人材を育成します。
▼解決を目指す「社会課題」
塩尻 かおり教授
生命科学科(化学生態学研究室)
[専門分野]生態・環境、植物保護学、昆虫科学
近年、世界中で異常気象が発生し、各地に甚大な被害をもたらしています。自然災害を引き起こす気候変動の大きな要因としてあげられるのが、温室効果ガスによる地球温暖化です。そうした現状を踏まえ、本学はカーボンニュートラルを先導する大学として、2022年1月に「龍谷大学カーボンニュートラル宣言」を発出しました。創立400周年となる2039年の達成をめざし、2021年より「龍谷大学学生気候会議」を継続的に開催しています。この会議では、学部や学年の枠を超えた学生たちが気候ガバナンスへの理解を深め、気候危機の解決に向けて議論を交わし、学生視点で考えた具体的な施策を提言します。一方で、教員による気候変動の研究も進んでいます。その一つが、文部科学省の科学研究費助成事業である「植物気候フィードバック」研究への参画です。本学からは化学生態学を専門とする化学生態学研究室が参加して研究をすすめています。
植物気候フィードバックとは、植物が放出する揮発性有機化合物を通じて大気組成や気候に影響を与え、それらが再び植物に作用する相互作用のメカニズムです。気候変動と植物の関係性について、これまでは植物が気候変動から一方的に影響を受けるとの認識が主流でした。しかし実際には、植物は大気組成や気候を能動的に変化させるという重要な役割を担っているのです。なかでも植物から放出される揮発性有機化合物(BVOC)は、エアロゾルの生成をとおして太陽放射収支や降雨量に大きな影響を与え、気候システム全体を変動させる可能性があります。植物と気候の間に存在する動的フィードバックの解明は、地球環境の未来を正確に予測するうえで、極めて重要な社会課題となっています。そうした背景を受け、植物気候フィードバック研究チームでは異なる分野の研究者たちが協働し、それぞれの専門性を活かしながら社会課題の解決に挑んでいます。
私たちは、植物が環境変化やダメージに応じてBVOC(揮発性有機化合物)の放出を変化させ、他の生物とコミュニケーションを取りながら共存している点に着目しています。これまでの研究で、BVOCが樹木、草本、昆虫などの生物間相互作用に及ぼす影響を明らかにしてきました。しかし、全球スケールでは気候や樹木種の分布が大きく異なるため、より広範な研究が必要とされています。そこで、北海道から東南アジア熱帯林までのさまざまな森林タイプにおけるBVOC測定と生物間相互作用の調査を実施します。森林構成樹木の種内・種間コミュニケーション、昆虫群集、被害度、土壌微生物叢、細根ネットワークを調査し、遺伝子発現・エピゲノムレベルでの解析も行います。得られたデータを全球スケールの樹木分布マップや土壌マップと統合することで、BVOCを介した生物間相互作用の実態解明と全球スケールでのBVOC放出量の推定、気候モデルへの応用をめざします。
研究の醍醐味は、「なぜだろう?」という素朴な疑問を科学的に解明していくプロセスにあります。その疑問が明らかになったとき、ぼんやりしていたものが徐々に形づくられていくときの喜びは計り知れません。自らが努力を重ねて積み上げた研究の成果が、現代社会に山積する社会課題の解決につながることもあるでしょう。私の研究室では、漠然としたアイデアを仲間とのディスカッションを通じて具体化し、新たな発見へと導く過程を大切にしています。学生には、自分自身が抱いた疑問を大切にし、その解決に向けて主体的に計画を立て、実行に移す力を身につけてほしいと考えています。そして、研究活動を通じて得られる「探究の喜び」を味わってください。この経験は、みなさんの将来を支える力となるはずです。社会に出てからも周囲と協力しながら課題解決に取り組み、どのような状況でも前向きに挑戦できる人材へと成長することを期待しています。
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東 采佳さん
植物生命科学科※ 4年生(滋賀県立米原高等学校 出身)
タンパク質は、植物が環境変化に応じて光合成を効率的に行うために重要な役割を果たします。私は葉のなかの特殊な細胞で働くBass4というタンパク質に注目して研究をすすめています。植物生理生化学の知識をもとに葉の成長段階による変化を観察し、より正確な検出方法の考案にも挑戦しています。この研究室では、天然記念物「ウツクシマツ」の保全活動にも取り組んでいます。定期的な保全作業に加え、芽生えの記録や森林総合研究所と連携したゲノム解析など、さまざまな角度から植物を守り、社会に貢献したいと思います。
※2023年、「生命科学科」に名称変更