
栄養や健康の観点から農作物をとらえ、人が健やかに生きるための「食」について学び、食べ物の生産から流通までを理解した管理栄養士を育成します。
▼解決を目指す「社会課題」
桝田 哲哉教授
食品栄養学科(食品化学研究室)
[専門分野]食品科学、構造生物化学
西澤 果穂講師
食品栄養学科(食品素材利用学研究室)
[専門分野]食品科学
田邊 公一教授
食品栄養学科(応用微生物学研究室)
[専門分野]細菌学(含真菌学)
生活様式の多様化が進む現代社会では、簡便かつ短時間の調理で食べられる加工食品が重宝されています。その一方で、日本の伝統的な食文化への関心は薄れつつあります。世代を重ねるごとに、日々の食事に対する意識や創意工夫を凝らした伝統的な食品加工技術への理解が希薄化しており、特に若い世代における、食に関する正しい知識の修得や日本の食文化の継承は重要な社会課題となっています。この課題を解決するには、家庭・学校・地域が一体となった取り組みが不可欠であり、特に高等教育機関での実践的な学びの機会が求められます。さらに、グローバル化が進むなかで、先人が築き上げてきた日本固有の食文化を正しく把握し、その価値を国際社会へ発信できる人材の育成も急務です。伝統的な食文化は、その土地の気候や風土、歴史、さらには人々の知恵が凝縮された貴重な文化遺産であり、これを次世代に継承していくことは現代を生きる私たちにとって、重要な責務といえるでしょう。
この課題に対して私たちは、地域の伝統産業と連携した学修の機会を設けています。その一つが、滋賀県甲賀市の老舗酒造メーカーである笑四季酒造株式会社の指導による、清酒醸造の伝統技術を学ぶ実習です。本学部が2017 年度に取得した「清酒・ビール及び果実酒製造免許」を活用し、原料の米は、農学部牧農場で収穫した米を用いて麹作りから清酒醸造までの工程を体験する、稀少かつ実践的なプログラムです。微生物の働きを利用した日本の伝統的な食品加工技術を体験的に学ぶことは、次世代の食文化継承者の育成にもつながるはずです。農学部であるからこそ体験できるこの産学連携プログラムは、学生が理論と実践の両面から日本の伝統的な発酵技術や品質管理手法の本質を学び、さらには、地域特有の食文化や産業構造への洞察も得ることで、地域の伝統産業の活性化にも貢献しています。食の循環をとおした実践的な学びは将来管理栄養士として活躍するうえで貴重な財産となるでしょう。
約3週間にわたる実習では、竹島充修代表取締役の直接指導のもと、伝統的な製造技術を修得すると同時に、その科学的原理についても探究しました。実習の集大成として実施される品評会形式の官能評価では、学生たち自ら製造した清酒の外観・香り・味の特徴を専門的な視点から評価しました。さらに自作の麹を使用した甘酒の試飲も行い、アルコールが苦手な学生も含めて、発酵のしくみに関する理解が進みました。この実習では、単に伝統的な日本酒の製造技術を学ぶだけでなく、微生物の特性や発酵のメカニズム、品質管理の重要性など、食品科学分野の基礎から応用までを総合的に学ぶことができます。自分たちで実際に作業する過程をとおして、より効率的で正確な知見と技能を修得できると考えます。また、グループワークというスタイルを取り入れることで、協働力や協調性、コミュニケーション能力の向上も図れます。
この実習を通じて、私たちは将来の管理栄養士となる学生たちに、食の本質を考察する機会を提供しています。彼らが得た学びは、次世代や海外の人々へ日本の食の魅力を発信していくうえでも、重要な役割を果たすでしょう。体験を通じた深い理解をうながすことで、私たちは日本特有の豊かな食文化を未来へ受け継いでいくという社会課題の解決に貢献していきたいと考えています。特に、管理栄養士として活躍する今後において、個々の食品に関する深い知識は不可欠であり、この実習での経験は、将来的な栄養指導や食育活動においても大きな価値をもつに違いありません。また、伝統的な発酵技術への正しい認識は、健康的な食生活の提案や、地域の風土や特産品を活かした栄養管理にも活用できると考えています。こうしたリアルな学びをとおして、食と健康の専門家として社会に貢献できる人材の育成を継続していきます。
食品加工学実習では普段体験することが難しい「日本酒作り」に挑戦しました。同じように取り組んでいても菌を入れる量や温度管理など麹を育てる過程の少しのちがいが完成したお酒の香りや風味、味に影響を与えてしまう点が難しく、おもしろいと感じました。各チームがつくったお酒には甘味、苦みなどちがいがあり、その味から仕込み方法のちがいを推測することもできます。今後も“食”について栄養面からアプローチしていきたいです。
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北村 竜聖さん
食品栄養学科 4年生(京都府 龍谷大学付属平安高等学校 出身)
アレルギーは国民の2〜3人に1人が罹患しているとされ、大きな社会問題となっています。疾患の進行を食い止めるには、幼少期から食生活に予防的な介入を行う必要があります。私自身の持病でもあったアレルギーの原因を明らかにするため、野菜摂取量を数値化するベジスコアに依拠した研究に取り組んできました。その結果、野菜の成分に関する知識が深化し、アレルギーをより深く理解できたと思います。知っているつもりだった事柄をしくみから考え直すことで、本質に迫るための思考力と多様な視点が身につきました。
【外部講師より】
日本酒製造は免許や法律による規制が多く、製造について公にされていませんが、世界的な日本酒人気の高まり、輸出量の増加など今後も発展が見込まれる分野です。若い世代が日本酒について学ぶ機会を提供したいと思い、外部講師として龍谷大学の実習に参加しています。本来の日本酒作りは繊細な作業ですが、日本酒への興味関心をもってもらうために簡略化した作業で実習をすすめています。製造工程のほんの少しのちがいが微妙な味や風味に影響を与えることを体験してもらえればと思います。また他大学や海外に身につけた知識を広めてほしいと思います。
笑四季酒造株式会社
代表取締役社長
竹島 充修さん