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Faculty of Agriculture

農学部

第4回 「食」と「農」の可能性と、これから。

ギモンを、ガクモンに。第4回 「食」と「農」の可能性と、これから。

※リクルート「進学カプセル」(2013年2月)掲載内容を転用しています。

「食」と「農」は、
これからどうなっていくのだろう?

農業が進化することで、わたしたちを取り巻く環境や状況は変化するのでしょうか。
また、どんなふうに進化するのでしょうか。変化がもたらす良い面、望ましくない面とは?

世界の伝統食や旬があることこそが大事?

世界中のおいしさの志向は様々です。そのバラエティはその地域環境で生育する農作物や、その土地でとれる畜産・魚介物が異なることで生まれています。そうして世界各地で伝統食が作られ、それぞれ大切に育まれてきたのです。

一方で、スーパーの棚には、国内産に加えて多くの国の食品が並び、外食時には、和食、洋食、中華をはじめとした多種多様な料理の中から好きなものをいつでも選んで食べることができる現代の日本。
食卓の多様化は自由で豊富な食の選択をもたらしましたが、一方では、自国での農産物の需要と供給バランス、すなわち日本の農業にも大きな影響を与えています。

和食がユネスコの無形文化遺産に登録され、和食に対して世界中の注目が集まっている今、日本に住むわたしたち一人ひとりが自国の食の魅力を再発見し、毎日の食を考えていくこと。それは同時に、これまで培われてきた日本の農業の持続性を高め、さらには農業の活力を高めることへとつながるのではないでしょうか。
このように、「農」と「食」は切り離して考えることはできません。
龍谷大学農学部では、農産物の生産、調理、食文化といった広い視点で「真に豊かで健全な食」を考えていきます。

畑を耕し、大切に育てた大豆を、味噌や豆腐に加工し、食べる。わたしたちの口に入るまでにどれだけの手間と時間がかかっているかを経験することは、改めて「食べること」の大切さを感じるきっかけともなるでしょう。
管理栄養士をはじめ、「食」に携わる仕事は、「食」を通じて人々の人生を豊かにする仕事です。それは、多種多様の人の人生にかかわっていくことであり、それぞれにとって真に豊かな食を提案していくためには、「食べること」にとどまらない幅広い教養と、大きな視野が必要です。
食の喜びは人生の喜びに大きく寄与しています。真に健全な食を提案していくこと。それはわたしたちが暮らす社会の豊かさを考えていくことにつながっています。

世界の伝統食や旬があることこそが大事?

農業の進化=農作物の生産量が上がること?

科学技術が発達し世の中が効率化されていく中で、わたしたちの「食」も変化しています。ボタン一つ押すと、栄養管理された液状食品がトレイの上に出てきて、それをスプーンで体内に流しこむ…そんなSF作品のような食事風景が、将来現実となる時代が訪れるかもしれません。
しかし、「食」は単に栄養・エネルギー補給を目的としたものではありません。その「食」を生み出す「農業」も、エネルギー生産や経済の観点だけで語られて良いのでしょうか? 近年では、そんな疑問の声が大きくなっています。

現在、見直されている農法の一つに、農地を耕さないで作物を栽培する「不耕起栽培」があります。自然の生態環境をよみがえらせて土壌を肥沃化することで、植物の本来持っている力を最大限に発揮させるこの方法は、環境保全と同時に農業の省力化につながります。
また、イネの栽培に関しては、育てた苗を植える「移植栽培」ではなく、水田に直接種をまく「直播(じかまき)栽培」の技術が発達することでも省力 化が期待されます。
まだ課題は多いものの、こうした農業の省力化が進めば、今後、日本でますます増加する高齢者が農業にかかわっていける機会が増えるかもしれません。

高齢者だけではなく、知的や身体的にハンディのある障害を持つ人たちも農業に携わっていければ、雇用や食料生産の問題解決の糸口にもなります。さらに、こういった人々を若者がサポートする体制が出来上がれば、農業を通じて世代を超えた活発な人的交流も生まれるでしょう。
また、「食育」ならぬ「農育」にも注目が集まっています。学校教育の中に農業を取り入れ、どろどろに汚れながら土を耕し、苦労して大切に育てた作物を自分たちで収穫し、それを口にすることで、「食」への感謝や「自然」への謙虚さが育まれることでしょう。

「農」とは、人と自然をつなぐもの。それには、社会構造やわたしたちの価値観さえも変える潜在力が秘められているのです。
龍谷大学農学部では、このような農業の可能性を模索しつつ、人と自然とが調和した農業の在り方を追求することで、持続可能な社会の実現をめざします。

農業の進化=農作物の生産量が上がること?

思い通りにならない自然や植物が、未来への可能性を秘めている?

植物には、春に芽を出すものもあれば、秋に芽を出すものもあります。また、野外で自生している植物にとって当然ながらその温度環境は一定ではありません。
植物は、このように一年や一日を通じて変動する温度環境に応答しているのでしょうか。

実験によく使われるシロイヌナズナという植物を例にとってみましょう。シロイヌナズナの生育適温は、22℃です。
ある日のシロイヌナズナ自生地での最高/最低気温は28℃/ 16℃でした。それぞれの温度で固定した環境でシロイヌナズナを育てると、28℃では細い茎がひょろひょろと伸び、16℃では茎は太く短く地を這うように育ちました。
野外で自生するシロイヌナズナは、16℃で栽培したものと同じように背の低いものが一般的です。この実験から、植物には野外温度を感知しそれに応答する能力があること、そしてシロイヌナズナは低温に適応して生育する、つまり秋から冬を好んで育つ植物であることがわかりました。

では、この実験結果を、日本の食料問題を大きく左右するイネやムギの研究に応用することはできるでしょうか。イネは春から秋にかけて育つ植物なので、応用研究の対象としては最適ではありません。
しかし、秋から冬にかけて育つムギはどうでしょうか。ムギは、一般的には11月中旬に種をまきます。シロイヌナズナと同様に最適な温度環境を感知し、低温に適応して生育します。応用研究により残暑にも負けず、太くて短い、冬越しに適した強いムギを育てることができれば、ムギの生育期間を前倒しして、延ばすことができる可能性があります。大きなムギを育てることができれば、ムギの収量を上げることができるかもしれません。
日本の主食は米ですが、世界的に食料として需要が大きいのはムギ。世界の「食」を考える場合には、ムギに応用する研究はとても重要な意味を持つでしょう。

龍谷大学農学部の農業実習では、どんな農作物を育てるのか、なぜそれを選ぶのかということから考えます。履修者の希望に従って、トウモロコシ・スイカ・ジャガイモなど多様な植物を育て収穫します。栽培する植物のそれぞれの性質に接する中でいろいろな失敗と成功を体験できます。この失敗の中に次の研究の「芽」が生まれ、成功によって「喜び」を感じることができるでしょう。

自然や植物の生育を、人が完全にコントロールすることはできません。しかし、視点を少しずらして、自由な発想で問題を見つめれば、そこには新しい発見の可能性が満ちています。わたしたちの「いのち」を育む農作物づくりは、そうした小さな気づきからも広げられるのではないでしょうか。

思い通りにならない自然や植物が、未来への可能性を秘めている?

産地(生産者)と食卓(消費者)の理想的な結びつきって何?

「地産地消」というフレーズを、耳にしたことがありませんか?
地元の農産物や水産物をその地域で消費するというこの取り組みは、流通過程でのコスト削減や、地場産業の活性化、伝統的な食文化の維持とそれによる食料自給率の向上といった効果があると考えられています。

また、フードマイレージ(食料の輸送量×距離で算出した指標。この値が大きいと輸送に使用する化石燃料が多く、その際に排出されるCO2も多いことになる)の観点からも、エネルギーの節約になり、地球に優しいとも言われています。
しかし、その一方で、問題を指摘する声がないわけではありません。地域に根ざした食育という観点から、給食に「地産地消」を取り入れた学校がありますが、結果的に給食費が値上がりしてしまい保護者から苦情が出ているケースもあります。

そもそも、産地(生産者)と食卓(消費者)が近いことは、本当に理想的なのでしょうか。農地に隣接した住宅に入居した住民が、畑にまかれる農薬や農地から出る土埃にクレームを付けるなどのトラブルも少なくありません。

さらに、狭い日本の国土を農地として利用することに疑問を持つ声もあります。安定的に海外から安価な食料を輸入できるのであれば、「無理に日本で農作物を作る必要はない」という意見です。わたしたちは、こうした問題にどのように対応すればよいでしょうか? 「地産地消はよい取り組みだ」「農場と食卓の距離は短いほうがよい」「日 本に農業は必要だ」と感覚的に思っているだけでは不十分なようです。

農作物の生産現場だけではなく、食の流通や経済の仕組みを知らなければ、こうした問題を考えることはできません。きちんとした知識を身につければ、価格の高低だけを判断基準として国産農作物を敬遠するといったこともなくなるかもしれません。そして、そうした消費者が増えれば、日本の農業に対する見方もきっと変わってくるでしょう。

龍谷大学農学部では、「食」と「農」を支える社会や経済の仕組みを学び、そこに潜む課題の解決に取り組みます。

産地(生産者)と食卓(消費者)の理想的な結びつきって何?

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