
土壌・作物・収穫物などの管理技術や高度な分析技術など、環境に配慮した作物栽培の理論と技術を学び、食や農に関わる現場において高い問題解決能力をもつ人材を育成します。
▼解決を目指す「社会課題」
平山 喜彦准教授
農学科(植物病理学研究室)
[専門分野]植物病理学、植物保護科学
三柴 啓一郎教授
農学科(植物育種学研究室)
[専門分野]遺伝育種科学、応用分子細胞生物学、園芸科学
滝澤 理仁准教授
農学科(野菜園芸学研究室)
[専門分野]生物系、農学、生産環境農学、園芸科学
農学部では、「いのち」を支える「食」の安定的な生産と供給という人類共通の課題に取り組んでいます。世界規模での栄養不足や環境問題、そして国内の農業従事者が抱える悩みは、すべて「いのち」の持続可能性にかかわる重要な問題です。そこで私たちは、遺伝子組換え技術や品種改良といった先進的な手法を駆使し、人々の健康と持続可能な農業の実現をめざしています。特に注力しているのは、開発途上国における深刻な栄養不足の改善、化学農薬の使用削減による環境負荷の軽減、そして農業従事者の高齢化や気候変動に対応した栽培技術の確立です。これらの課題に対して、基礎研究から実用化まで包括的なアプローチで取り組むとともに、地域社会との連携も重視しています。食と農にかかわる複雑な過程を専門的に研究し、その成果を社会に還元することで、持続可能な食料生産システムの構築に貢献していきます。
植物病理学研究室では、耐病性をもつイチゴ品種の育成をめざしています。近年育成されているイチゴは味が良くとも炭疽病やうどんこ病などに非常に弱く、生産者は多くの化学農薬を使用せざるを得ない状況です。これは国が掲げる「みどりの食料システム戦略」の農薬削減目標の達成を困難にしています。そこで私たちは、農学部牧農場のイチゴ栽培ハウスで多様な品種の交配と選抜を行い、良食味と耐病性を両立する新品種の育成に取り組んでいます。耐病性系統の選抜では、何千という苗から病気に強い個体を見出し、食味や生産性なども総合的に評価して選抜をすすめています。さらに、効率的な選抜方法の確立や病気に強い個体を生み出しやすい親品種の組み合わせなど、基礎的な研究も並行して行っています。研究開始から数年を経て、現在いくつかの候補品種が選抜されました。将来的には、新品種を用いた商品開発や農家への苗の提供も視野に入れています。
植物育種学研究室では、開発途上国で問題になっているビタミンA欠乏症の改善に役立てることを目的とした、遺伝子組換えナスの開発に取り組んでいます。ビタミンA欠乏症は視覚障害を引き起こし、最悪の場合は死に至る深刻な健康問題です。特に開発途上国の乳幼児に多く見られ、経済発展を妨げる要因ともいわれています。そこで私たちは、アジアを中心に世界で広く栽培されているナスに着目し、遺伝子組換え技術により、ビタミンA前駆体であるβ-カロテンを果実に蓄積するナスの開発を試みました。ナスは果実にβ-カロテンをほとんど含みませんが、フィトエン合成酵素の遺伝子を果実で発現させることにより、果実にβ-カロテンを蓄積させることに成功しました。この技術により、将来、ビタミンA欠乏症が問題になっているインドやバングラデシュなどのナス生産国で、効果的な栄養改善への貢献が期待されます。現在は遺伝子組換えナスの栽培実験を重ね、β-カロテンの蓄積量を高める条件の検討をすすめています。
野菜園芸学研究室では、果菜類、特にトマトの単為結果性品種の研究開発をすすめています。単為結果性とは、受精なしでも果実が成長する性質をさします。この性質をもつ品種は、訪花昆虫による受粉や植物ホルモン剤の処理がいらず、栽培の省力化と経済性の向上を可能とします。さらに、着果と果実肥大が花粉の稔性に依存しないため、花粉の稔性を低下させる高温や低温下でも安定した生産が見込めます。トマトは果実研究におけるモデル植物であり、単為結果性の研究がもっとも進んでいます。しかし、その誘導機構には未だ多くの謎が残されています。また、単為結果性遺伝子の導入は植物体や果実に悪影響を及ぼすことがあり、それが実用化の大きな障壁となっています。単為結果性をもつ遺伝資源の探索や品種改良を効率化するDNAマーカーの開発をすすめながら、遺伝子の同定やそのメカニズムを明らかにし、不良形質を伴わない単為結果性品種の実用化をめざします。
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嶋津 龍登さん
資源生物科学科※ 4年生(愛媛県立西条高等学校 出身)
世界規模でリン資源が枯渇している今、リン酸質肥料の削減や国内に蓄積しているリンの効率的利用が求められています。その課題の解決には土壌学でのアプローチが有効であると考え、「畑地土壌へのリンの蓄積状況とSAPを用いた葉菜栽培試験」をテーマに卒業研究をすすめています。分析対象のサンプルが多いなどの苦労がありますが、研究グループのメンバーと助け合っているので心強いです。土壌学の内容が資格試験で出題されたり、逆に資格対策で学んだことが研究に役立ったりするなかで、自分の専門性の深まりを感じています。
※2023年、「農学科」に名称変更