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アグリDX 人材育成事業

農学部長・先端理工学部長 対談

瀬田キャンパスを拠点に動き出した
農学部×先端理工学部の「アグリDX」人材育成

2022年春から動き出した「アグリDX」人材育成事業の特徴のひとつが、農学部と先端理工学部のコラボレーションです。社会課題に挑戦する両学部がどのようなタッグを組むのか、農学部長の大門弘幸先生と先端理工学部長の外村佳伸先生にお話を伺いました。

農業人材にデジタルマインド・スキルを

編集部:「アグリDX」人材育成事業での協働に注目が集まる、農学部と先端理工学部。まず は、それぞれの学部の特色をお教えください。

大門先生:農学部が開設されたのは2015年ですので、できて間もない学部です。工学部などの理工系学部に比べると、農学系学部は全国的に必ずしも多くなく、また、生命環境科学部とか生物資源科学部など大学によってその名称も変化してきており、「農学部」と称する学部を開設している大学は少なくなっています。龍谷大学の農学部は農の原点を見つめることに重きをおき、人類生存の根源である「食」と「農」に関わる多様な課題を解決できる人材を輩出する、という教育目標を持った学部として、名称も農学部としました。

外村先生:理工学部が瀬田キャンパスにできたのは33年前の1989年。2020年に先端理工学部という名で再出発しました。改組のポイントは、全国の理工学部系学部で初めて「課程制」を導入したことです。それまでは、どうしても学科の壁があったのですが、「課程制」になったことで横断的な学びが促進できました。「アグリDX」人材育成事業を契機に、今度は学部を飛び超えた連携ができます。農業はもちろん、生命、自然を対象にすることで、先端理工学部の学生もより幅広い視野が持てるのではないかと期待しています。

編集部:「アグリDX」人材育成事業は、デジタルマインド・スキルを持った農業人材の育成、そして実習の高度化が重要なテーマですよね。

大門先生:本学の農学部 では、低炭素社会の実現につながる食料システムを創出し、それに貢献し得る人材を育成することを課題としています。瀬田キャンパスの先端理工学部には、クラウドコンピューティングなどの情報科学の進展を最先端でやっておられる先生、そしてそれを専門とする学生がいます。農や食の領域でもデジタルマインド・スキルを養うために、異なる領域の人たちとコラボレーションしたいと、以前から考えていました。今回、文部科学省の大学改革推進等補助金(デジタル活用高度専門人材育成事業)「デジタルと専門分野の掛け合わせによる産業DXをけん引する 高度専門人材育成事業」に採択されたことで、同じ瀬田キャンパス内にある先端理工学部とのコラボレーションの一つが実現したというわけです。産業DXのうち、本学では農学分野を中心としたDXに取り組むためこれを「アグリDX」と呼んでいます。

地に足のついたデータをサイエンスする

外村先生:アグリDXを進めるために、データサイエンスに長けた人材を育成することは大切です。しかし一方で、数字ばかりの表面的なデータだけを操作して探求する、ということに少し疑問も抱いていました。扱っているデータを手で触れている感覚があるような、もっと実感をもったデータサイエンスをしていかなくちゃいけない。これまで先端理工学部のクラウドコンピューティング演習で使うデータは、すでに世の中に存在する交通量や人口推移のデータでした。農学部の学生が実習で集めてくるのは、実感がともなう地に足のついたデータです。どんどん成長していく生きたデータを共有し、扱えるというのは、先端理工学部としても非常に新鮮な体験。大門先生にお声がけいただいて、ぜひ一緒にプロジェクトを進めたいと思いました。

大門先生:瀬田キャンパスから車で15分ほどのところにある牧農場の水田や畑から、どれだけのメタンや一酸化二窒素が出ているか。そんな生のデータを提供できるんじゃないか、というお話しをしましたね。温室効果ガスの排出量を把握し、実際にその環境で農作物を育て、収穫し、加工し、消費する。そのような“食の循環”に関わる多様なデータを解析することは、「食と農」への学生の興味をさらに引き出すことにつながると思います。温室効果ガス以外にも、気温、日射量、生育の様子などをデータ化し、その環境が継続したり変動するとその後の収量はこうなる…。圃場の環境データと実際の作物生育のデータを読み取り、その後の生育や収量を予測していける人材こそ低炭素社会の実現に必要なのです。

外村先生:これまでのような網羅的なデータ収集には幅がありすぎて、そこから意味のある情報をとりだすのは大変です。データを取る時になにを意識すべきなのか、先端理工学部から農学部へのフィードバックができるかもしれない。後期に行うクラウドコンピューティング演習では手始めとして、農学部の田畑から集まったデータにどういう傾向があるか、可視化することを予定しています。そこに農学部の学生も参加できれば、より良いと思いますね。また、蓄積されたデータをある段階で公開すれば、龍谷大学が世の中にデータを提供する側になるかもしれない。農場からのビッグデータを、地域の小・中・高校生がデータサイエンスを学ぶ時の材料にしてもらえるかもしれない。お互いが持っている素材を掛け合わせて何ができるのか、大門先生とお話していると非常にワクワクします。

新しい技術で低炭素社会を実現したい

編集部:農学部と先端理工学部のコラボレーションで、どんな未来予想図を描いておられますか?

大門先生:農業分野ではすでに、トマトやイチゴをハウスで栽培する場合、カメラ画像から成熟度合いを判断し、色づいたものだけをロボット収穫することも可能になりつつあります。また、重たいものを持つのが困難なシニア世代の生産者が、収穫物や農薬のタンクを簡単に持ち上げられるパワードスーツもすでに開発途上のものとしてあります。私たちは、ここ滋賀の地において、水稲、麦類、豆類といった土地利用型作物について、データ駆動型の生産技術を開発し、低コストで環境調和型の栽培を実装したいと考えています。例えばですが、先端理工学部の画像解析の技術を使って、麦や大豆などの広大な畑で雑草がたくさん生えている場所を見極め、そこだけ雑草を刈る。窒素栄養が不足して葉の緑色が薄い農作物にだけ肥料をまく。そういうことを複合して行えるロボットができれば便利ですし、それによって肥料や農薬の量が減れば環境にも優しい。主食の農作物を育てる現場に対して、新しい技術を導入していきたいと思っています。

外村先生:先端理工学部は幅広い分野をカバーしています。そのひとつに環境分野を専門にする環境生態工学課程があり、そこは農業とダイレクトに関係すると思っています。たとえば水を処理して汚れた水をきれいにすることを研究する専門家もいますので、水田のデータと農学部の知恵をシェアしてもらいながら、環境改善に役立てられるんじゃないかと思っております。

環境DNA解析で瀬田の未来を予測する

大門先生:滋賀県には琵琶湖がありますので、先端理工学部でも水の研究をされているんですよね。琵琶湖や周辺の河川から採取した水から、どんな生物が生息していたかがわかる環境DNA。その分野で培われた解析技術は農耕地生態系にもいかすことができると思います。その一つに、圃場の土壌にどんな微生物や小動物がいるのかもモニタリングできる。環境DNAの解析をもとに、どのような環境が作物生産を支えているのか、また、生産性を維持するためにはどのような農耕地生態系を保全、創成していけばよいか。このようなアプローチを2学部のコラボで進められればと考えています。いわば、瀬田キャンパスならでは「瀬田学」のような学問の方向性を示せればと思っています。

外村先生:実は、環境DNAの分野に関しましては、研究の中心的な役割を果たしている龍谷大学の生物多様性科学センターというところで、先端理工学部の先生が先端的な研究を進めています。自然環境って多様性の中でうまく成り立っているんです。環境DNAの分野は農学部と関係を密にしてやっていけるんじゃないかと思います。琵琶湖につながる河川があり、その河川の上流の方で何かあれば、中流も琵琶湖も変化する。いろんな事象を結びつけることで、環境全体がわかってくる。それは農場にもいえること。研究者がひとりで面的に調べるのは大変ですが、多くの人に水をすくってもらい、そのデータを解析していくと全体の環境が見えてきます。個々の学部だけではわからなかったことが、協働によってわかってくるでしょう。

大門先生:「アグリDX」人材育成事業をベースに、新しい実習を受けた学生が社会で活躍し始めるのは、まだ先の話です。成果が現れるのは5年、いや10年以上かかるかもしれません。卒業生らが社会を動かすような人材になっているかどうかを評価するのは,なかなか難しいことですが、それは大学の責任としてやらなきゃいけない。10年経った時に「滋賀の農や食がこんな風に変わった」「その変化に龍谷大学の卒業生が大いに貢献した」と言えるように、本プログラムを進めたいと思います。大学が地域の農業や食産業の進展に積極的に関わり、変化の起点になることが、本事業の成果のエビデンスになるのかもしれません。「アグリDX」人材育成として始まった取り組みが、この国の30年後、50年後のあるべき姿に向けた一歩になればと思います。

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