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アグリDX 人材育成事業

教員インタビュー

農学部の学生が先端理工学部の
「クラウドコンピューティング演習」に参加

従事者の高齢化や働き手不足が、深刻な課題となっている日本の農業。私たちの食を支える農業を持続可能な産業にするために、デジタルマインド・スキルを持った人材の育成は不可欠です。そのような農業に関する産業を支える人材を育成するため、2022年からスタートしたのが「アグリDX人材育成事業」です。本事業では、農学部の学生が先端理工学部の演習に参加するなど、これまでにないコラボレーションも実現しています。今回は、農学部生が特別参加したクラウドコンピューティング演習を担当する、先端理工学部の佐野彰先生と関本達生先生にお話を伺いました。

編集部:まずはおふたりの専門分野、研究テーマについてお教えいただけますか。

佐野先生:専門分野は数理脳科学や実験認知科学。研究テーマは、ヒト知能の情報科学です。ニューラルネットワーク、ディープランニングといった、AIを支える技術を扱っています。AIといえば顔が認識できるとか、物体が認識できるとか、実用的に使用されるものが現代のメインストリームですが、私が研究しているのはもう少し認知寄りといいますか。人間がどういうふうにものを考えているのか、あるいは脳がどういう形で情報処置しているのか。計算機によるシミュレーション実験や、ロボットを用いた人工認知実験を通して、ヒト認知システムの構築を進めています。

先端理工学部 数理・情報科学課程 佐野 彰助教

関本先生:私の主な業務は授業や研究ではなく、コンピューターやネットワークなど情報環境の運用管理です。前職ではウェブアプリケーションの開発をしていましたので、今回の「アグリDX人材育成事業」を通して、瀬田キャンパス全体のDXに向けた環境整備にも貢献できればと思っています。本事業で重要視している“実習の高度化”を推進するための、パブリッククラウドプラットフォーム・Microsoft Azureの初期設定や構築にも、佐野先生と共に携わっています。

龍谷大学瀬田学舎情報システム(RINS) 関本 達生実習講師

編集部:文部科学省の「デジタルと専門分野の掛け合わせによる産業DXをけん引する高度専門人材育成事業」の採択に向けて、申請段階からこのプロジェクトに参加されているそうですね。

佐野先生:いわゆるIT技術は、どんな専業産業分野においても絶対に必要な要素になりつつあります。ひと昔前でいう、読み書きそろばんのように誰もが使えることが大前提、使えないとその産業や企業が立ち行かない、そんな世界になっていくと思います。農学部の実習においても、現場で土を触り、農作物を観察するだけでは、農業の未来を変えてはいけないと思います。高齢化や後継者問題が深刻な農業に関わる人々は、もっと効率的に生産、流通できる農業への変革を期待しています。農学部と先端理工学部とが協働し、農学部の農場で得た気温、日射量などの生の環境データと作物生育のデータを共有して掛け合わせ、農作物のその後の生育や収量を予測していくことができれば、農業の未来につながる、新しい知見が得られるかもしれない。分野にこだわらず、学部さえも飛び越えて取り組むことで、新しい教育の基盤を築けるのではないかと、プロジェクトの立ち上げ時から期待していました。

関本先生:昨今、本学のいろんな場所でも、業務や研究、教育をもっとDXしていくべきだという話がよく出ています。そういった中で、将来的には大学教育全体にもつながっていく、未来に橋渡しするような「アグリDX人材育成事業」にしたいと考えました。本事業で私が参加したMicrosoft Azureというデータ基盤は構築できましたが、必要な学生の誰もが自由に使うことができて、自分の研究に活かしてもらえるまで、あと少しの段階です。

編集部:Microsoft Azureの計画を進める上で意識されたことは?

佐野先生:クラウドサービスの専門業者に設計・構築を丸投げするのではなく、私たち大学側の研究者や学生も一緒に設計に関わり、技術的な面はもちろん、教育的な面を議論しながら、段階的に設計・構築を進めました。ある課題が目の前にある時、外部の専門業者にただ依頼するだけでは、経験として何も残りません。使う側が新たな動きにコミットし、使う側が携わることによって学びも得られます。身近で専門業者のプロフェッショナルたちの仕事ぶりを見られることは、今後、社会に出ていく学生たちにとって良い経験だったと思います。

関本先生:これからの農業は、データドリブンがひとつのキーワードになってきます。今まで、農家の方々は自身の勘を頼りに「そろそろ肥料やろう」、「水が必要だ」と判断し作物を育ててきたと思います。もちろん熟練者の勘も重要ですが、農業データなどを活用し、科学的根拠に基づいた作物生産を行うことで安定的な収量確保につながるでしょうし、比較的農業経験が浅い新規参入者にとっては就農へのハードルが下がると思います。ビッグデータの分析結果をもとに、意思決定を進める手法は農業だけでなくすべての産業の主流になるでしょう。データを扱うことは将来きっと役立つことから、本事業の取組みを通してデジタルマインド・スキルの重要性を学生に伝えられたらと思います。

編集部:農学部の学生を交えての授業、2021年度までとの違いはありましたか。

佐野先生:農学部の学生が参加したのは、2022年度が初めてのこと。クラウドコンピューティング演習、合計3回に希望者が参加してくれました。演習で目指したのは、集めたデータを自身で読み解く力を身につけることです。水田から集めたデータを数値化、グラフ化して見やすくすることを、実際に作業しながら経験してもらいました。

関本先生:2020年度までのクラウドコンピューティング演習で扱っていたのは、ある都市の電力消費量や天気に関することなど、パブリックなデータでした。対して2022年度の演習で用いたのは、農学部牧農場の水田の水温・水位といった本学所有の生データだったので、学生たちは身近に感じたと思います。「生」のデータに触れられるというのは、先端理工学部の学生にとっても貴重な体験でした。

佐野先生:水田のデータに想定外な数値があるとしますよね。その原因は、現場を知る人間でないと読み解けないんです。先端理工学部が出したデータの解釈を、農学部の現場にフィードバックし、水や肥料の与え方を変えてまたそのデータを検証する。そのような学内の循環ができれば、教育現場の環境はよりよくなっていくと感じます。

編集部:「アグリDX人材育成事業」の未来に、どんな期待を抱いておられますか?

佐野先生:農学部のDXは始まったばかりで、まだまだこれからです。若い学生たちは感性も柔軟ですし、便利ならば使おう!とデータともクラウドとも、すぐ仲良くなれると思います。これまでデジタルを苦手としてきた学生がククラウドコンピューティング演習に参加して「なんとなくできた」「データの扱い方に慣れた」と思えただけでも大きな進歩だと言えます。

関本先生:2022年度の「アグリDX人材育成事業」では、データを貯めていく基盤の構築に取り掛かり、本学所有の農業用ドローンやGNSSトラクターも揃い、やっとDXに進んでいく準備が整ったという状況です。データ基盤や最新の農業IoT機器を農業の効率化に活用していくには、それらを適材適所で使える人材が必要になります。データや技術を使いこなし、そこから学ぶ力を育んでもらうためにも、今後もしっかりサポートしていきたいと思っています。


佐野 彰(さの あきら)

龍谷大学先端理工学部数理・情報科学課程助教

学歴/北陸先端大・院・情報科学
学位/博士(情報科学)
専門分野/数理脳科学、実験認知科学

関本 達生(せきもと たつお)

龍谷大学先端理工学部電子情報課程実習講師

学歴/京産大・済
学位/学士(経済学)
専門分野/情報教育・教育工学に関する分野をテーマとした、教育・研究用の情報処理教育設備やネットワーク等の運用・管理

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