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アグリDX 人材育成事業

西本願寺での龍谷米進納式後の鼎談
龍谷大学農学部1年生に伝える「食」と「農」、そして「命」について

2022年12月16日、西本願寺の御影堂で龍谷米の進納式が行われました。進納されたのは、農学部1年生が牧農場で収穫したお米とそのお米で作った白味噌です。

式典後、「アグリDX人材育成事業」の関連事業として、石野元彦氏(株式会社石野味噌代表取締役社長)、寺本知正氏(浄土真宗本願寺派総合研究所副所長)、大門弘幸教授(龍谷大学農学部長)の鼎談を実施。「アグリDX」人材育成の根幹である「食」と「農」、そして「命」について、学生に向けたお話をしていただきました。

農作物の生産と利用をDXの視点から理解する

農学部長 大門弘幸教授

近年の日本農業は、「たくさん」から「おいしい」へと変化し、米作りでもいわゆる良食味米を作っていきましょう、という方向へと変化してきています。学生のみなさんは、とてもおいしいお米を食べて育った世代なのです。一方、お米づくりの視点で留意すべきことが環境保全。酸素が少ない還元状態の水田は、メタンガスをたくさん排出します。メタンガスの温室効果(温暖化係数)は、二酸化炭素の約30倍。特にお米を主食とするアジアの国々は、お米を作りながら温暖化ガスを多く排出しているとも言えるのです。また私たちは、大豆や麦も食べますよね。大豆や麦を畑で育てる際には、たくさんの窒素肥料が使われますが、そのような畑からは亜酸化窒素が出ます。このガスの温暖化係数は、二酸化炭素の約300倍です。そういう視点から見ると、農作物を生産するということは、環境に負荷をかける可能性もあるということを知っておいてほしいですね。これからの時代、「おいしいお米」を「環境負荷がかからない」方法で作るということが求められてきます。

「アグリDX人材育成事業」の目的に、低炭素社会を実現するデジタルマインド・スキルを持った食や農の分野における人材の育成をあげていますが、まずは作物生産における様々な現像を数字で把握する習慣をつけてほしいと思っています。例えばメタンガスや亜酸化窒素は1平方メーターあたり1時間でどのくらい出ているのか。それが季節でどう変化するのか。こういった視点からも作物生産の現状を理解し、これからの農学の学びに生かしてほしいですね。

日本全国には約450万ヘクタールの農耕地があり、その半分以上が水田で、実際に使われているのはそのうちの約140万ヘクタールです。人口減少や後継者不足によって、稲作を取り巻く環境は厳しい状況にあります。環境にやさしい農業を試みたい、おいしいお米を作りたい、という思いをもった新規就農者は少しずつ増えてきていますが、挫折せず継続していけるかどうかも注視すべき問題です。よく耳にする、1次産業+2次産業+3次産業=6次産業と呼ばれる、加工分野に農業従事者が関わるケースも増えています。このような取り組みは大いに進めるべきです。

石野味噌さんには、私たちが作ったお米と大豆を味噌に仕込んでもらう、農・商・工連携の一例を一緒に行なっていただきました。作物生産から加工にいたるまで、作物の生育や環境にまつわる情報を数値化し、その数値をベースに地域に見合った栽培方法や品種を作っていく。このような新しい流れを支える人材を輩出していくのがアグリDXの役割だと思っています。

過去、現在、未来の人と人をつなぐ「食」

浄土真宗本願寺派総合研究所副所長 寺本知正氏

先ほどの進納式において今年も龍谷米、白味噌をお供えいただいきました。丹精込めて作られた米という命、そしてそこから作られた味噌という命、これを仏という命にお供えいただくということに、心から御礼申しあげます。みなさん、本当にどうもありがとうございました。私は約10年間、瀬田キャンパスで講義をしていたこともあり、農学部のある瀬田キャンパスは、学生同士や学生と教員など、人と人とのつながりを非常に感じる、ともに学びともに生きていると強く実感できるキャンパスだと思います。そうした人と人をつなげている「食」は、人生において大きな役割を果たしています。

私は「食べたものによって人は作られている」とよく申します。宗教の世界では、古事記や日本書紀をもとにした古来の神話に、伊邪那岐(いざなぎ)、伊邪那美(いざなみ)という夫婦の神様の物語が出て参ります。この夫婦は、この世のさまざまなものを生み出した神様です。最後に火を作り、妻は自らの身を焼いて死んでしまい、亡くなった伊邪那美は地底の国へと送られます。ところが妻を愛してやまない夫は、「どうか我が愛する妻よ、僕と一緒に地上の国に戻っておくれ」と、妻を地底まで追いかけていくんです。そこで妻は「どうしてもっと早くきてくれなかったの?私は地底の食べ物を食べてしまったので、あなたと一緒に地上には帰れません」と告げます。これは日本独自のものではなく、海外にも似たような神話があります。ギリシャ神話ではペルセポネという女神の話が出てきます。あまりに美しいので地底のハーデスという魔王がペルセポネをさらって、地底へと連れ帰ってしまう。ペルセポネの母で季節をつかさどる神は嘆き悲しみ、地上の世界は一年中、作物が育たない冬になってしまいました。神様同士が協議し、地底のハーデスに直談判してペルセポネを取り返そうとします。詰め寄られたハーデスは一計を案じ、地底の国の食べ物をペルセポネに食べさせました。するとペルセポネは「地底の食べ物を食べてしまったので、もう地上には帰れない」と告げるのです。日本とギリシャで話を合わせるはずもないのに、内容がとても似ていますよね。食べたものがその人を作るということを、人類はずっと感じ続けてきました。それほど「食」は生物的な意味だけでなく、心さえもつくっています。それほど「食」は人をつくる大切なものです。このように、「食」は宗教の世界では人と人をつなげる大きな役割も果たしてきました。

浄土真宗のお寺では、大きな法要があった後にお精進料理をいただきます。白い御飯、お味噌汁、豆腐や大根を炊いたもの、お漬物などです。これが美味しいんですよね。いろんな土地においしいものはあるけれど、あれこれ食べると脳は混乱する。お精進料理には同じ水で育てられたお米、野菜、味噌、醤油が使われているので自然に体の中に入っていきます。それがとてつもなくおいしいのです。仏様にお仏飯をお供えし、それをおろしてきて仏様と一緒にみんなでいただく。先に亡くなった方々と同じものを食べるということによって、深いつながりを結んでいく。「食」とはそういうものだと思います。その一方、大門先生のお話にもあったとおり、私たちが農作物を育てることにより、環境に負荷をかけている事実もあります。ともに生きるということは同世代だけではなく、今の子どもたち、これから生まれてくる子どもたち、その将来の世代と、ともに生きるということです。今を生きる私たちには、その責任があります。私たちを支えてくれた過去の命、未来に生まれてくる命とともに生きる。学生や教員のみなさんには、「命」を支える「農」、そして、これからの「農」を支援する「アグリDX」の人材育成に取り組まれていることに感謝を伝えたいと思います。どうもありがとうございました。

重要な米麹作りこそデジタライゼーション

株式会社石野味噌代表取締役社長 石野元彦氏

白味噌と聞いても、関西以外から龍谷大学に進学した学生はピンと来ないかもしれませんので、白味噌の背景を少しお話ししようと思います。白味噌は米麹の使用量が多く塩分が低いお味噌です。熟成期間は1週間足らずと短期熟成で作ります。平安時代の書物に書かれているのですが、とても貴重な砂糖の代わりに白味噌を作るようになったそうです。お米も砂糖ほどではないにしろ貴重でしたので、白味噌を召し上がるのは宮中の方や貴族でした。味噌汁ではなく、花びら餅や柏餅の味噌餡など、甘さを加えるために使われていた白味噌の背景があります。このような背景がありますが、今は、関西を中心に白味噌のお雑煮で新年を祝うことが習慣となっています。

石野味噌の創業は天明元年(1781)年、約240年ずっと味噌を作り続けており、私が9代目となります。もちろん創業当初はすべて手作業だったと思われますが、戦後の昭和30(1955)年頃からどんどん工場内の機械化が進みました。お味噌作りで一番大事なことは、米麹作りです。米麹の良し悪しが味噌の味に大きく影響します。まずお米を蒸して、それに種麹という麹菌を散布するところから米麹作りはスタートします。麹菌を散布したお米を一晩寝かせ、自動製麹機で温度管理をしています。米麹は育成する途中でどんどん温度が上がっていくので、このタイミングまでは上げすぎないよう抑える、最後はここまで温度をあげていく、といった温度の微調整を自動制御しております。昔は製麹を行う製麹室のそばに人を配置し、手で触れて温度を確かめ、夜中には上下にかき混ぜる手入れという作業が必要でした。米麹の下の部分が酸欠になってしまいますので、手を入れてかき混ぜる作業が必要なのですね。今は、この手入れ作業もすべて自動化しています。

現在、京都府にはお味噌のメーカーが6社ありますが、作り方はそれぞれです。今でも米麹作りも手作業で行い、夜中に製麹室に入って手入れされているところがあると聞きます。温度も時間も各社さまざまだからこそ、さまざまな米麹が生まれ、各社の味噌の味が受け継がれています。現代社会における労働環境の課題をクリアしながら石野味噌の味を次世代へ伝えるためには、先端技術を使った機械の導入だけでなく、職人の技術の数値化(デジタライゼーション)やその技術基盤を構築できる人材が必要となってくると感じており、そのような人材を育成する「アグリDX人材育成事業」には大いに期待をしています。

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