トウモロコシ、イネと並ぶ世界三大穀物の一つであるコムギは、パンやパスタの原料としてわたしたちの食生活を支えています。コムギ属は、異種ゲノムの統合による異質倍数性と呼ばれる進化を遂げた代表的植物で、これまでの研究から、細胞核に存在する染色体からなる核ゲノムと細胞質中の葉緑体とミトコンドリアに局在する細胞質ゲノムの進化上の系譜がともに明らかにされています。研究の目標は、冠水耐性や耐塩性など環境ストレス耐性に働く細胞質ゲノムの多様性と核細胞質ゲノム間相互作用の仕組みと役割を明らかにし、それがもたらす遺伝的なヘテロシス効果をパンコムギの育種に利用することです。具体的には、パンコムギの種々の核ゲノムと近縁野生種の細胞質ゲノムを組み合わせた核細胞質雑種コレクションを用いた生物検定とともに、ストレスが誘導・抑制する遺伝子発現の解析や関連酵素活性の測定などにより、環境ストレス耐性に働く核ゲノムと細胞質ゲノムの協調発現の仕組みを明らかにしようとつとめています。