食と農にまつわる様々な課題に取り組むトップランナーをゲストに迎え、「食の循環」をキーワードに、龍谷大学農学部教員とのトークセッションで諸課題の本質的な解決に向けて、食と農の未来を切り拓きます。
地域農業を一つの事業として成り立たせるために、企画・生産・販売を通した地域交流から創りだされる様々な取り組みを学び、地域事業の未来を語ります。
日時 : 2014年3月7日(金) 会場 : 龍谷大学大宮キャンパス
有限会社篠ファーム 高田 実 社長 農園芸ひとすじ。園芸高校卒業後、小売、卸、流通、輸入まで、農 園芸関連の様々な仕事に携わる。その経験を活かし、平成8年、篠ファーム設立。国内で初めて取り扱う世界の野菜や、激辛唐辛子ハバネロのプロデュース、限界集落や農業高校とのアイデア溢れるユニークな取組みで、日本の農業の地位向上を図っている。
3月7日に開催された龍谷大学農学部食の循環トークセッション第2回「農山村から創りだされる食の循環」〜地域事業の在り方から見る、地域農業提携の未来〜ダイジェストムービーです。
全ての内容をご覧になりたい方は、こちらからご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=NbemjdOYOr4
課題の原因と地域農業の現状を7つのポイントにまとめてみました。
統計上、農業従事者の平均年収は一人当たり200万円。一般的には農業だけで生活できず、年金をもらってやっと継続できる状態です。たとえ、若い人が意欲を持って参入しても、平均3年くらいで離農してしまう。現在、価格は流通主導で決められているため、デフレスパイラルの中で価格競合がおきています。例えばキュウリ1本28円の特売ならば、最終的に生産者の手元にくるのは5円程度。規模を拡大して帳尻を合わせる手もありますが、限界集落などの地域農業では栽培面積が少なくそれも難しい。年に6万5000件の農家が減少していると言われており、このままだと日本の農業は立ち行かなくなってしまいます。
マーチャンダイジングの基本は、企画・生産・販売・販促。しかし、現状では地域農業の生産者がパッケージを考えたり、営業したりできるのかという問題があります。特に、今の農業に足りないと感じるのが企画。企画のポジションを農業が担い、何らかの付加価値を創り出すことで、流通ではなく農業従事者が価格決定権を持てるような仕組みを作ることが必要です。
そういった取り組み例として、篠ファームでプロデュースした「ベリートマト」を例にあげてみましょう。ミニトマトにベリーという響きを付けた美味しそうなネーミング。パッケージは黒で高級感を演出。サイズをあえてばらばらにすることがかえって商品を魅力的に見せる。これがスーパーならA品B品という風に仕分けされているところです。このように一般消費者、百貨店、専門店、業務用など誰に買ってもらうのかを意識した企画を立てれば、いくらでも販路の広がりは出てくるものです。
地域農業者が食べていけないのは、日本の農業に元気がない原因でもあり結果でもあります。双方向で影響し合っているからこそ非常に解決が難しい。ですから、高田社長のような取り組みをされている方の存在はとても心強いですね。地域農業の問題は皆さんが思っているより深刻です。京都は南北に長く山の方にいくと雪が降っていて人が全然いません。農業政策で若い方に「農業をやりましょう」「企業的な経営をしましょう」と呼びかけても、やろうという人すらいない。解決はそう簡単なことではありません。
農業、特に地域農業では若者が根付かない状況です。高齢者に偏っているから、新しい発想や動きが出てこない。今後はこれらを違うところから持ってきて農業をひっぱっていくスタイルが望ましいのではないでしょうか。現実には、村の中で一人だけ突出したことをやっていると中々受け入れられない部分もありますが、外から来た人がぐいぐいひっぱっていけば結構上手くいくものです。それが若い人であればベター。俗に言う「若者、よそもの、馬鹿者」ですね。こういった若者が村と農業を支えていければということで、コーディネーターという言葉を選びました。
現在、私一人で啓蒙していくことに限界を感じています。小売り・卸・流通・輸入商社から篠ファームの活動に至るまで40数年の経験を通じて得た私の知識を、いかに若い人たちへと短期間で伝承することができるのか。日々、そんな想いで活動しています。今の生産者の方々は良いものを作れるのですが、企画・販売・販促できる経験も環境もない。先ほど企画の重要性について触れましたが、次に挙げるとしたら販促ですね。マスコミの力を借りて共鳴してもらえるような発信をすることが重要。また、人脈を拡げて情報の集まる環境を作るのも大きなポイントです。
日本の農業を支える高齢者の方が継続的に農業をしていくためには、農業の省力化が必要ではないでしょうか。省力化=機械化と思われがちですが、それは結局お金で労力を買っているだけ。もっと根本的に無駄を省いていく必要があります。例えば化学肥料。一般的な農業のやり方では「大量投入→植物が弱くなる→病害虫がつきやすくなる→再び農薬を買う」という悪い循環で、余計なところに手間とコストがかかってしまう。龍谷大学農学部にとって、高齢者が続けやすく農作物にとってベストな「無駄のない農法」を考案していくことが使命のひとつだと思っています。
本来、野菜は苦くて子どもが避ける味。それを大人が美味しいと学習させています。つまり、脳は味だけでなく、情報や蓄積した知識で美味しいと判断するわけです。今後は消費者自身が、そうした知識の蓄積をトレーニングする必要があるのではないでしょうか。「安くて美味しければ良い」という風潮に対して、「野菜の適正な値段」を味の判断や選択に採り入れられるよう食育していくことが重要だと思います。龍谷大学農学部食品栄養学科でも「どう食べるのか」「どう栄養を摂るのか」を追いつつ、「どう選ぶのか」という観点を採り入れていかなくてはと感じました。
退職後限界集落に移り住み、農業を始める方も多いですが、初めは皆さん農業が下手です。もともとその地域で農家を営む人は、当然ですがすごく上手い。同じように作っても、農家の人の方が彩りよく美味しい野菜ができます。移住者にすれば、どうすればそんな野菜ができるのか聞きたくなるし、農家の人も教えたくなる。身近でそういう関係ができると、地域はどんどん盛り上がるのではないのでしょうか。そういった動きに、篠ファームさんの「ふるさと野菜おすそ分け」のような新しいビジネスの観点を持ち込めば、より大きな活性化につながると思います。
どうしても人間は両極端な考えに陥ってしまいがち。農業でいえば「利益優先で儲ける」と「自然を守る」に分かれますが、共に大切な方向性です。この状態を川に浮かんだ丸太に例えてみましょう。丸太がこちら岸にもむこう岸にもつかないで進んでいければ、いずれ海に出ていく。この真理がいわなる「中道」です。地域農業振興も両極端に進むのではなく、バランス感覚を持って進めていけば、より多くの問題が解決して行けるのではないでしょうか。地域農業の問題が解決できれば大型農業にも応用できますし、日本全体の農業発展にもつながっていくと思います。
篠ファームさんの大ヒット商品「篠ソース」から感じたのは、私たちの食事は土台がしっかりしていなくとはなりませんが、時々スパイスも欲しくなるということ。スパイスが食卓をより一層美味しく豊かにしてくれます。農業のあり方においても同じで、「篠ソース」のような存在がスパイスになり、農業全体の活性化につながっていくのだと感じました。これからも高田社長には次のスパイスをどんどん探して頂きたいですね。期待しております。
龍谷大学農学部を創る上でどうすれば良い教育をしていけるのだろうと日々考えています。学生には地域の農業にも触れさせてあげたいし、それを上手くオーガナイズしている人の姿も見せてあげたい。今回、高田社長のお話を聞いて、いろんなスタイルがあるということを伝えれば、その学生は自然と新しい価値を創り出していけるのではないかと感じました。教育や研究と同じく、農業では答えのない道を探していくわけですから、「これをすれば成功する」というものはない。多くのスタイルを経験できる農学部にしていかなくてはと決意を新たにしました。
農業の環境にビジネスという言葉を出すと、多くの方が拒否反応を示されます。要するに「環境を大事にしよう」ということが過度に強調されすぎている。「そこで生活している人がお金を稼いて食べていけないと農業という産業が成り立たない」ことが、ともすれば忘れられてしまいがちになるわけです。ビジネスと自然、この2つのバランスを上手くとっていくことが、今後の農業発展の鍵になってくると思います。
篠ファームの「篠ソース」には今日お話させてもらった全てが凝縮されています。今でこそ篠ファームといえば「ハバネロの果実を国内で初めて流通させた会社」ですが、最初は農家さんや流通関係者の方から「こんなものを持ち込むなんて」と厳しいお叱りを受けました。そんなハバネロを今や京都府内で34名の生産者の方が栽培し、「篠ソース」の生産量は年間200万個に上ります。事前に買取り価格を決め、収穫は100%買うことにしているので、生産者の方は安心してハバネロを作って頂ける。極論かもしれませんが、農産物を売るために農業をするのではなく、加工品を売るために農業をするという考え方があってもいいのではないでしょうか。農業の不安定な部分を加工で解決出来れば、安定した食の循環につながると思います。
ブランディングという言葉は気軽に使われますが、そんなに簡単なことではありません。結局は「地道に手間暇かけて良いものを作る」に尽きます。ロゴマークを作ったり凝った名前をつけたりしても、見せかけだけでは消費者にサウンドしない。その背景に良いものを作るという努力や、高田社長がされているような創意工夫が必要です。ですから、安易にこうすればブランディングできるというようなものはないと思います。【香川文庸教授回答】
香川先生がおっしゃる通りですね。ブランディングは作るものではなく、結果として評価されるものです。私の場合もそうでした。たまたま限界集落のおばあちゃんから野菜をおすそ分けされたことがきっかけで、「ふるさと野菜おすそわけ」というビジネスを作った。それは決してソーシャルビジネスを始めようというわけではなかったのですが、結果的に地域活性への貢献を認められ、大阪の商工会議所からソーシャルビジネスの大賞を頂いたんです。
ブランディングから入らず、結果的にそうなるように持っていくやり方ならたくさんあります。答えから入らずハウツーから入った方が結果につながりやすいと思いますね。【高田実様回答】
紅葉の例のように、ヒントは身近なところにあります。今回ゲストに来ていただいた高田社長も、これまでならば売り物にならなかったかもしれない「大きさが不揃いなトマト」を敢えて詰め合せるというアイデアでビジネスチャンスを掴んでいます。「他者が目を付けていないこと」を見出し、ちょっとした工夫を施すことが成功の秘訣なのかもしれません。ただ、現場の農業者の方々は既に色々な取り組みをしており、その多くが十分な成果を上げていないことも事実です。農産物を加工したり、売り方を工夫したりすることは勿論大切ですが、それを社会に上手く発信する必要があるようです。また、話題になるのは、どちらかと言えば、メインの食材ではないことが多いようにも思われます。日本農業の停滞を打開するためには、市場規模がある程度大きなメインの食材でビッグヒットが生じないといけないのですが、これは中々難しいようです。【香川文庸教授回答】
我が国の農家の圧倒的大多数は兼業農家、しかも、農外所得が農業所得よりも大きい第Ⅱ種兼業農家です。兼業農家の位置付けについては様々な見解があります。「大規模な企業的農業経営の成長を阻む存在」だといわれる一方で「地域農業の維持・発展には欠かせぬ存在」だと言われたりもします。単純な経済効率性のみを最優先するのならば、前者の位置付けが正しいのかもしれません。しかし、ムラ社会や農村コミュニティの維持、環境保全や循環型の農業生産という観点に立つと、兼業農家の役割や機能は重要だと言えそうです。どのような経済主体が農業生産を担当していくべきであるのかは、その地域毎に異なります。どちらか一方だけではなく、両者が共存することではじめて地域農業が維持されるケースも存在します。地域の特性や自然条件、経済的な条件、社会的な条件等を見極めて、その地域に合った農業構造(農業生産を担当する経済主体の組み合わせ)について検討することが大切です。【香川文庸教授回答】
農家子弟の就農とは別に、非農家子弟が農業を始めるケースが徐々に増えてきています。いわゆる「農業ブーム」です。農業に参入する若者は大きくは二つに分かれます。一つは、農業に仕事としての将来性や魅力を感じ、農業で生計を立てようとする者、もう一つは、「ライフスタイル」として農業を始めようとする者、です。いずれの場合でも、安直な考えで農業を始めようとすると痛い目に合うことが多いようです。
そういう人達にまずもって知ってもらわねばならないのは「農業は簡単ではない」という至極当たり前のことです。そして、農業を始めようとするならば「農業について勉強すること」が大切だと指導する必要があります。ここでいう「勉強」は土の耕し方や播種の仕方、といった生産技術だけではありません。営農計画の立て方や経営管理の仕方、消費者ニーズの捉え方、農業を取り巻く経済情勢、などを含みます。また、ムラとの付き合い方、自分が生産した農産物を食べる消費者、農業と環境の関連、「食の循環」や「持続可能な農業」といった事柄についても学ぶ必要があります。これらを地域ぐるみで指導・教育する体制を整えることができれば、他所から入ってきた若者を、地域の農業の担い手に育てることができるかもしれません。【香川文庸教授回答】
かつて農業高校は後継者育成や学科関連技術者の育成を目的に、卒業後は後継者あるいは社会の即戦力として期待されていましたが、進路が多様化した今日では、農業を中心に学びつつ、専門性と特性を活かした豊かな人間づくり教育へと変わりつつあります。「農業は社会の根幹をなす産業である」との認識が普及し、日本の農業が活性化すれば、農業高校卒業者の社会的需要も高まることでしょう。また、大学へ進学し、広い教養とより深い専門性学ぶことにより、進路の幅を拡げることも選択肢の一つではないでしょうか。龍谷大学農学部では、多角的に視野から農業の価値を再認識し、日本の農業の活性化に貢献でできる研究教育を行っていきます。農業高校卒業者を対象とした推薦入試を設ける予定をしており、熱意あふれる学生を育成することにも尽力したいと思います。【玉井鉄宗助教回答】
学校教育の中で、農業体験を取り入れている小学校が増えています。土を耕し、苦労して大切に育てた作物を自分たちで収穫し、口にすることで、「食」への感謝の気持ちが生まれ,それが「いただきます」という言葉を生み出しています。こうした「農育」の観点がキーワードになるのではないでしょうか。また、小さな頃から、こうした伝統的な食や食文化に触れ、食の風味・おいしさを刷り込み、地元や地域の食への愛着を持たせることが、和食を継承してゆく中で重要なことだと思います。【山崎英恵准教授回答】