農学部 食の循環トークセッション [龍谷農と。]

食と農にまつわる様々な課題に取り組むトップランナーをゲストに迎え、「食の循環」をキーワードに、龍谷大学農学部員とのトークセッションで諸課題の本質的な解決に向けて、食と農の未来を切り拓きます。

農学部 食の循環トークセッション [龍谷農と。]

第1回テーマ 「京のおばんざい」に学ぶ和食の
継承と食の循環
~ 和食は無形文化遺産登録へ ~

無形文化遺産に登録が確実視される「和食」。
1000年以上「和食」を育て続けた京都に根付く「京のおばんざい」から食の循環を学びつつ、和食と食・農の未来を語ります。

日時 : 2013年12月13日(金) 会場 : 龍谷大学深草町家キャンパス

ゲストプロフィール

杉本 節子氏

杉本 節子 公益財団法人奈良屋記念杉本家保存会常務理事兼事務局長、料理研究家、エッセイスト。京町家と京町衆の文化継承と同時に、NHK出演、新聞・雑誌などでエッセイ、講演、大学非常勤講師、料理講師、食文化展示監修などの活動を行う。

龍谷大学農学部登壇者
古本 強 教授植物生命科学科古本 強教授
玉井 鉄宗 助教資源生物科学科玉井 鉄宗助教
山崎 英恵 准教授食品栄養学科山崎 英恵准教授
香川 文庸 教授食料農業システム学科香川 文庸教授

トークセッションダイジェストムービー

12月13日に開催された龍谷大学農学部食の循環トークセッション第1回「京のおばんざい」に学ぶ和食の継承と食の循環ダイジェストムービーです。
全ての内容をご覧になりたい方は、こちらからご覧ください。

https://www.youtube.com/watch?v=TqLiwzqhKZE

トークセッション まとめ記事トークセッション まとめ記事

和食の無形文化遺産登録について

和食の無形文化遺産登録について

日本人として、自国の食文化を世界的に文化価値があると評価されたことは、純粋に嬉しいと感じていますし、京都の食文化を後世に伝えて行くということにおいて、歴史的な第一歩であり、節目であると考えています。しかし、喜ばしい一方で、無形文化遺産に登録されたということは、衰退が危惧された文化であると考えることもできます。この登録をきっかけに、自国の文化を守り伝えて行けるように、食べる行為を超えて、歴史・文化を学び直し、食を豊かにして行くことをめざして行きたいです。

京のおばんざいの魅力

京のおばんざいの魅力

京のおばんざいとは、京都で食べられている普段のご飯のおかずであり、江戸時代の京商家のならわしが伝承されているおかずです。京のおばんざいのだしがらの炊いたんというおかずは、だしをとるために利用しただし素材を、だしを取った後に細かく刻み、じっくり煮込んだおかずです。この料理には、お金をかけずに手間ひまをかけて新しいものを生み出す、という京商家の質素倹約や物を捨てない精神が反映されています。今日の消費経済の中で京のおばんざいは、地球環境の改善にも貢献できる料理であると考えています。

京のおばんざいから見える食の課題

京のおばんざいから見える食の課題

杉本様から提示された食の課題「食を取り巻く自然環境= 農の変化と食に対する思いの希薄化」

「いただきます」「ごちそうさま」と胸の前に手を合わせて、言葉を発することが、現代の食卓では少なくなっていると感じています。それは、自然の命をいただくことや、食に関わる人々への感謝が薄れているからではないかと危惧しています。日本の食文化の根幹を成す米の消費量の減少や、何かをしながら食事をする人の増加等は、姿勢を正して食べ物と真正面で対座し、食べ物に対して敬意を払う、という食に対する大事な心構えの薄れではないかと考えているのです。

古本強 教授

龍谷大学農学部植物生命科学科古本強教授の課題解決キーワード作物との距離感

今は「食」と「農」がとても離れている状態です。例えば、おにぎり一つでも100円くらい出せば、すぐに食べることができる。でも、その1粒のお米を育てるのに、どれだけの時間や苦労があるのかを、想像することは難しいですね。自分の手や目の前で育つものを食べることができれば、どれだけの時間がかかるのか、作物がどのような病気になるのかを、体がわかるようになります。「種の多様性」を考え、「伝統野菜」を守っていく、そういう教育をしていくことで、「いただきます」「ごちそうさま」という心が自然と生まれてくるのではないでしょうか。

玉井鉄宗 助教

龍谷大学農学部資源生物科学科玉井鉄宗助教の課題解決キーワード農育

私たち人間は、自然から命を奪わなければ生きていくことができません。「いただきます」という言葉は、生きていく「喜び」と、命を奪う「悲しみ」を背負った言葉です。しかし、いくら尊い命を奪っていることを口で伝えても、悲しみと喜びを実感することはできません。「人間と自然とを結ぶへその緒は、食と農である」という言葉があります。教育に農業を取り入れ、自分で育て収穫する一連の流れを学ぶことで、自分も自然の一部だと初めて実感し、生きる喜びと悲しみを持つことができるのだと思います。

山崎英恵 准教授

龍谷大学農学部食品栄養学科山崎英恵准教授の課題解決キーワード離乳食

「個食」という言葉があります。これにはいろんな種類の意味があるのですが、外食などをして、家族一人ひとりが違うものを食べることも「個食」です。同じものを食べて、その美味しさを共有できないことは「食の感謝」への希薄さにつながると思うのです。そう言った意味では、食のスタートである「離乳食」はとても大切だと思います。今、親と違うものを食べる離乳食が増えています。同じものを食べて美味しいと一緒に思うことが、作ってくれた人たちへの感謝にもつながるのではないかと思うのです。

香川文庸 教授

龍谷大学食料農業システム学科香川文庸教授の課題解決キーワードゆとりある社会

現在、私たちは日々の暮らしに追われ、じっくりと時間をかけて調理することや家族一緒に食事をすることが難しくなっています。ゆとりのある社会にならなければ、食べ物に気を配り、大事にするという気持ちは芽生えてこないと思います。海外には食うや食わずの方がたくさんいるわけですから、本物志向、食に対する感謝の気持ちという問題は、贅沢な悩みなのかもしれません。しかし、ゆとりのある社会、人々が安心して暮らせる社会になることで、私たちが食べ物について真剣に考えることができるようになれば、国内農業の問題やグローバルな食の問題の解決にもつながるのではという想いがあります。

和食の未来について

古本強 教授

龍谷大学農学部植物生命科学科古本強教授の回答時間軸・プロセス・想像力

おにぎり一つとっても、1粒の米が1年間という時間を経て光合成をし、エネルギーを蓄えた稲を、人がご飯を炊きおにぎりを握るというプロセスを経ます。一つのおにぎりが供されるまでの時間、プロセスを想像することが和食の未来のキーになると思います。私は「植物が季節を感じる」という研究をしています。地球の地軸が傾き、太陽を公転することで季節が生まれ稲も実るのではないか。そのようなことを発想、想像することが和食の未来を理解することにつながると思います。

玉井鉄宗 助教

龍谷大学農学部資源生物科学科玉井鉄宗助教の回答使命

トラブルを抱えている企業というのは「権利」と「義務」で人が動いており、うまくいっている企業は「感謝」と「使命」で動いているそうです。食に対しても同じことが言えます。私たちは生きるために「食べる権利」がある、だからこそ「和食を守る義務」があると考えるとおかしくなると思います。食べ物一つひとつに「感謝」し、その感謝の表れとして何かをする「使命」を持つ。義務とするか使命とするかで全く違うものになります。使命を持って和食や農業を守っていくべきですね。

山崎英恵 准教授

龍谷大学農学部食品栄養学科山崎英恵准教授の回答アイデンティティ

日本語をしゃべれなくとも日本人の方もいらっしゃるように、ますます進むグローバル社会の中で、今後どこに自分のルーツを求めるのか。それはどこに住んでいても、親と一緒に食べてきたもの、先祖代々受け継がれた食こそが、その方のルーツやアイデンティティを形成するのだと思います。そして、食べ物の志向や好きなものが同じであることがグループを作っていくのだと。日本人が和食を自分たちのルーツやアイデンティティであると、もっと感じていけたらいいのになと思います。

香川文庸 教授

龍谷大学食料農業システム学科香川文庸教授の回答脱高級化

多くの人々にとって和食は家庭で食べるものではなく、外で食べるもの、お金がかかるものというイメージが強いのではないでしょうか。お総菜、おばんざいも外で買って帰るものというイメージがあります。和食と家庭との距離を今すごく感じています。もっと身近なものにしないと和食が家庭からますます離れていくのではないかと危惧しています。もちろん一流の料理人が作る和食はなければなりません。しかし、本物志向とは別に、手軽に食べられる和食、もっと簡単に作れる和食というものがないと、和食を未来に引き継ぐことはできないのではないでしょうか。

杉本節子さんの回答

杉本節子さんの回答味蕾(みらい) から未来へ

和食はうまみを特徴とした料理です。味蕾(みらい) とは舌にある味を感じる部分ですが、食と農の関係の距離が縮まって、うまく循環していき、健康な食と健康な農を味蕾(みらい) で感じることが大切です。そのことが、日本人としての心を育み、日本の文化をさらに愛でたり、発展させていったりする未来へとつながっていきます。四季を味わい、旬を愛でる。その営みこそが生態系なのです。味蕾(みらい) から未来へ和食の味という食文化を継承していくことを大事にしていきたいと感じています。

トークセッション Q&A <当日回答>トークセッション Q&A <当日回答>

おばんざいや和食の中で器の役割をどのようにお考えですか。

「器は料理の着物である。」と言われています。料理をどのような器に盛るかによって、映え具合が違ってきます。一つの煮物をとってみても、常の日用の器に盛り付ければ、常の日用になりますし、ちょっと立派な器に盛り付ければ、ちょっとしたもてなしの料理にもなります。一器三用、四用など、一器多用にすれば、器は多用に料理を演出してくれるものなのです。【杉本節子さんが回答】

京野菜や伝統野菜はどのように継承されていますか、新しい技術・農法が活かされているからこそ拡がっているのですか。

伝統野菜は固定種、在来種といわれています。固定種は自分たちで育てたものから種を取って引き継いでいきます。しかし、大きさにバラつきがあり、手間も労力もかかります。そのため一時期、消えかけてしまいました。今、伝統野菜が拡がっているのは、新しい農法を活かしているのではなく、反対に古い農法の良さを守り、手間暇かけてつくることで、独特な味と風味を引き継ぎ、和食を支えているからです。【玉井鉄宗助教が回答】

TPPで食の自由化が進むと安い海外の農作物との競争が大変になり、日本の農作物を海外へ売るのは難しくなるのでしょうか。

日本にも、海外に輸出している産地や農家は一握りですがいらっしゃいます。「日本の農産物は高品質なので高値で海外に売ることができる」としばしば言われますが、他国が追いつけないくらい世界一美しいと無条件に信じ込むのは間違っていると思います。確かに優れたものを作ってはいますが、他国が品質面で日本産の農産物に追いつき、しかもより安い価格で販売できるようになる可能性もあります。TPP交渉の結果に関わりなく、日本が海外へ農作物を輸出し続け、さらにそれを伸ばすということは難しいと思います。【香川文庸教授が回答】

日本の農作物を海外へ売ることが難しくなると、農作物を作ることは、自給自足・地産地消が目的へと変わっていかざるをえないのでしょうか。

私は自給率の問題に対して「自己責任」という考え方を持っています。私たちはお金を使って海外から大量に食料を買い、必要以上に消費し、さらにたくさん捨てています。その一方で食べられなくて死んでいく人が世界にはたくさんいる。こうした状況には道義的な問題があります。私たちは、「自分たちが食べるものは、ある程度は自分たちで作る責任がある」という発想を持つ必要があるのではないでしょうか。そのためには、国民みんなが農業に対する理解を正確にし、食に対して敏感に考えねばならないと思っています。【香川文庸教授が回答】

トークセッション Q&A <当日未回答>トークセッション Q&A <当日未回答>

食料の自給率は約4割、しかしながら食べ残し等食の無駄は世界一。この問題にどう立ち向かい解決するのか

大変難しい問題です。龍谷大学農学部の使命は、ある意味、この問題の解決にあるといっても過言ではありません。簡単に答えがでるような問題ではありませんので、いくつかの事実確認とそこから導かれる大きな方向性を示すことでお答えに代えさせていただきます。

  • ア)食品の無駄な廃棄をやめれば、それだけで食料自給率は50~60%近くにまでなるといわれています。
  • イ)しかし、そうであっても、現在わが国で消費されている食料を自国内だけで生産することは不可能です。
  • ウ)わが国の食料問題、自給率問題の根幹の一つは家畜が食べるエサ(飼料)です。
  • エ)国産農産物は生産効率が低く価格が高いという問題がありますが、その結果であるとともに原因であるのは農業の弱体化です。

以上より、

  1. (1) 国産農産物の生産と海外産農産物の輸入とのバランスを取りつつ、
  2. (2) 国内の農業を就労者にとって魅力ある産業(生活のできる産業)に育てながら、
  3. (3) 国内農業の生産効率を僅かずつかもしれないが向上させ、
  4. (4) 国内で生産されている農作物の品目構成を今日の日本人の食生活にフィットしたものに転換していく、

ための方策を考えねばならないことがわかります。また、そのために消費者である私たちは何をなすべきであるのか、農業に関わりを持つ関連産業は農業をどうサポートしていくべきなのか、国や行政の役割は何なのか、農業を支援するための国民的な合意をどのように形成するのか、支援に伴う負担問題をどう考えるのか、など沢山の問題を解決していかねばなりません。

和食の世界無形文化遺産登録により農業や食に関する人々の関心は高まってはいるものの、残念ながらまだまだ高くなく、ネガティブな情報、偏った情報に惑わされているケースも少なくありません。農業や食に関わる問題は国民全体の問題です。龍谷大学農学部は高度な研究と教育を通して、
合理的な判断に必要不可欠な正しい情報の発信と今後の農業を支える人材の育成・輩出に努めます。【香川文庸教授回答】

子どもの成長とともに食のスタイルは変化している。50代夫婦は完全な和食を楽しんでいる。和食はやはり年配者へのものなのか

育ち盛り、働き盛り、ひとの毎日の活動量は様々ですし、特に若い世代は洋食でお肉をしっかり食べたいと思うことも多々あるでしょう。人生を通していろんな食を楽しむことは大変良いことだとおもいます。その中でいつも帰ってほっとできる場所、どの世代においてもそうした位置づけとして和食があればと思います。【山崎英恵准教授が回答】

和食は世界的にもブームになっていると聞きます。海外の人たちの中でブームになっている和食を日本人が楽しまなければならないと思います。そのためには、もっと行事を大切にするべきだと思いますが、いかがですか

その通りですね。行事には必ずといっていいほど食べ物がセットになっています。様々な年中行事は四季の移ろいを感じ、食べものの旬や行事食の謂れを生活の中に自然な形で伝えていく大事なものだと思います。【山崎英恵准教授回答】

和食が無形文化遺産登録されたことから大学が責任を果たして行かなければならないとお話されましたが、具体的にどういう事なのかを知りたいです

農業は私たちの食を支えています。一方で、私たちの毎日の食は日本の農業の存続に深くつながっています。農業は食をつなぎ、食は農業をつなぐ。和食と日本の農業は一心同体だと思います。龍谷大学農学部は日本の食と農業をしっかりと支えられる人材を育てていきたいと考えています。【山崎英恵准教授回答】

和食は栄養学的にどうなのかを知りたいです

ご飯を中心に一汁三菜で構成される和食のスタイルは、世界的にも認められた栄養学的に優れた食事です。特に、ちょっとの肥満ですぐに糖尿病になってしまう遺伝的背景を持つ我々日本人にとっては、ご飯を主食においた低脂肪かつ高タンパク質の和食がベストマッチです。【山崎英恵准教授回答】

食育を推進している者の立場として質問します。川上である生産から流通、消費という食の全体を現場で伝えて行く事の難しさを感じています。やはり食育は家庭がベースとは思いますが、主婦が台所に立つ時間もどんどん減ってきていると聞いています。食材の生産、料理、栄養、文化まで含めて、どのように後々の若い世代に伝えて行くか、そのキーポイントについて教えていただければと思います

鍵となるのは「三つ子の魂」ではないかと思います。伝統的な食の風味やそのおいしさを小さい時に刷り込み、地元や地域の食への執着をもたせる。そうした執着は広がりをもった食への興味喚起につながるのではないかと思います。そのためには、わたしたち大人の心がけが大切なことはいうまでもありません。【山崎英恵准教授回答】

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