農学部 食の循環トークセッション [龍谷農と。]

食と農にまつわる様々な課題に取り組むトップランナーをゲストに迎え、「食の循環」をキーワードに、龍谷大学農学部教員とのトークセッションで諸課題の本質的な解決に向けて、食と農の未来を切り拓きます。

農学部 食の循環トークセッション [龍谷農と。]

第6回テーマ 京都産酒米から学ぶ
「米」と「食の循環」
〜日本の伝統産業と農業の未来〜

「祝」「京の輝き」という京都産酒米を利用した酒造業。
日本の伝統産業である酒造業と米の関係から見える視点を切り口に、米と伝統産業の今と未来を語ります。

日時 : 2014年10月3日(金) 場所:伏見夢百衆

ゲストプロフィール

若井 芳則氏

黄桜株式会社 専務取締役
伏見酒造組合 理事・原料委員会委員長
若井 芳則 京都市生まれ。京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、黄桜株式会社に入社。研究室室長、原酒部部長、醸造部部長などを経て、平成7年専務取締役に就任。京都大学農学博士としても活動中。

龍谷大学農学部登壇者
古本 強教授植物生命科学科古本 強教授
猪谷 富雄教授資源生物科学科猪谷 富雄教授
山崎 英恵准教授食料農業システム学科山崎 英恵准教授
香川 文庸教授食料農業システム学科香川 文庸教授

トークセッションダイジェストムービー

10月3日に開催された龍谷大学農学部食の循環トークセッション第6回『京都産酒米から学ぶ「米」と「食の循環」~日本の伝統産業と農業の未来~』のダイジェストムービーです。 全ての内容をご覧になりたい方は、こちらからご覧ください。

https://www.youtube.com/watch?v=5pCvuFh661U

トークセッション まとめ記事トークセッション まとめ記事

京都産酒米の現状について

若井芳則氏

黄桜株式会社 専務取締役
若井芳則氏
精米率の高い良い日本酒が人気

近年、清酒の出荷量は大きく減ってきています。しかし、一般酒や本醸造酒のマイナス成長に対して、純米酒・吟醸酒・純米吟醸酒といった精米率の高い「良い酒」は順調に出荷を増やしています。現在、清酒の原料としては7割が食用米、3割は酒造好適米(以下酒米に省略)が使用されています。米の外側にはタンパク・脂肪・ミネラルがあり、人には栄養となりますが、清酒にとっては香りや味を悪くしたり色を増やしたりする原因となるため、酒を造るには米を磨く必要があるわけです。良い酒ほど精米率は高くなり、1俵の玄米からとれる出荷量が少なくなります。酒米は粒が大きくタンパク質が少ないのが特徴。粒の真ん中の心白という部分が食用米に比べて大きく、割れにくい・吸水が良いなど清酒の原料に適した性質を持っています。純米酒や純米吟醸酒などの人気に伴い、酒米の出荷量も増えてきました。現状は酒米の2大品種である「山田錦」と「五百万石」が生産数量の半分を占めています。京都は清酒生産量で全国第2位。それにも関わらず、京都の清酒業界で京都産の米は5%ほどしか使われていません。

京都の米で京都の酒を

「祝」はかつて京都産の良質な酒米として伏見の酒造で多く使用されていましたが、収量が少ないことから昭和49年以降姿を消していました。昭和63年から伏見酒造組合の働きかけで栽培方法が改良され、試験栽培がスタート。平成4年には20年ぶりに製品化されました。 また、伏見酒造組合、京都府農林水産部、独立行政法人農研機構、京都府立大学、京都府の農業関係団体等が集い、京都産新品種の酒米「京の輝き」を育成。黄桜・月桂冠・齊藤酒造が実地醸造を行った上で、良い酒が造れることを確認し、本年品種として成立しました。本年は「京都の米で京都の酒を」推進会議も発足し、清酒メーカー、農業生産者団体、行政等が一体となって、京都の酒米の生産拡大、清酒の増産と需要量拡大等を目的とした活動を展開しています。

京都産酒米から見える課題

若井芳則氏

黄桜株式会社 専務取締役
若井芳則氏
清酒の売上UPと京都の米農家の収入安定

清酒の需要はピーク時(昭和48年前後)に比べて1/3くらいに減少しており、我々清酒メーカーは、さまざまな米を使って清酒の売上拡大につなげていきたいと考えています。しかし、京都の米農家さんは米の価格変動によって不安定な状態。事実、今年もかなり米の価格が下がりました。そこで、将来がなかなか難しいと考えられている米農家さんの収入安定、および清酒の売上UPを課題として設定させていただきました。

古本強教授

龍谷大学農学部植物生命科学科
古本強教授の課題解決キーワード
「祝」の声のDNAと現場の声のリンク

僕は植物のDNAや細胞レベルの研究をしています。「祝」の性質もDNAに描かれていて、それを分析していくのは僕の得意分野。しかし、たとえ最先端の研究で性質を明らかにしても、現場の農家の人はすでに十分知っていたということがよく起こります。「祝」は昭和49年に生産がゼロになったそうですが、当時の農家さんがまだ現役でいらっしゃるのではないでしょうか。その方が持つ「祝」を育てた手応え、感覚などの声を引きとめ、DNAの分析を同時に行うと、より現場に近い研究ができるのでは。やみくもに研究するより、そういう声が拾えるうちにすくい上げて、合わせる形の研究で「祝」の性質を明らかにする。僕ならそういうアプローチをとっていくだろうと思います。

猪谷富雄教授

龍谷大学農学部資源生物科学科
猪谷富雄教授の課題解決キーワード
伝統種をもとに、さらに品種改良を

学生時代に学んだ育種学に関する言葉で「10年後20年後の社会の要望を想像しながら育種しなくてはならない」というものがあります。稲の品種改良には10年くらいかかります。現状も大切ですが、10年後はどんな社会になっているかも考えていかなくてはなりません。「京の輝き」はいくつかの系統を実際に栽培してお酒を造り、その中から優れたもの選んだとお聞きしました。収量も上がりおいしいお酒ができるとのこと。また、「祝」という優れた品種も復活させた。京都の米で京都ならではのお酒をつくるのは非常に有意義だと思います。こういった活動を続けながら、なおかつ将来を見据えた品種改良を行い、「背が低くて倒れにくい。栽培しやすく収量が高い。酒造特性が高い」といった夢の品種を実現していく。不可能ではないと育種の立場から信じています。

香川文庸教授

龍谷大学農学部食料農業システム学科
香川文庸教授の課題解決キーワード
社会的責任

“地場の農産物を使い企業活動をするのが企業の社会的責任”として捉えられることが多いですが、それは言うほどキレイ事ではありません。例えば、農家さんにそれなりのお金を支払うには製品を高くしなくてはならない。そうなってくると流通量が減って売上が落ち、差額分を企業がかぶるという話になってきます。概念として、企業だけではなく消費者の社会的責任というのも成り立つのではないでしょうか。お酒文化を守りたいなら消費者は消費者でそれ相応の負担をしなくてはなりません。日本人なら正月はお酒を。お祝い事には良いお酒を飲もう。それが「その時だけ」では意味がない。消費者も普段から日本の酒文化を意識しながら生活していく必要があると思います。

山崎英恵准教授

龍谷大学農学部食品栄養学科
山崎英恵准教授の課題解決キーワード
清酒ヴァリエと酒塾

日本酒は若い世代にとってとっつきにくく、いつからどう飲み始めたらいいのか想像がつかないような気がします。日本食と日本酒文化を正しく伝えたり教えたりできるような人や酒塾が必要なのではないでしょうか。
「清酒ヴァリエ」はフランスのシュバリエにかけました。フランス政府がシャンパンの普及に貢献した人にシュバリエの称号を与えているように、日本も正しい日本食と日本酒文化を伝えるような制度をつくり、そういう称号を与えていけば良いのではと思っています。
日本食ブームの波に日本酒もしっかり乗って、飲む人口、興味を持つ人口を増やしていく。そして「日本酒を造るためにこれだけの手間とお金がかかっている」という意識を向上させれば、消費者が社会的責任を持つことのサポートにもなると思います。

若井芳則氏

黄桜株式会社 専務取締役
若井芳則氏の課題解決キーワード
京都の農業・農家と清酒業界の連携

京都の米農家は消費圏ということもあり、かつては作れば売れるという状態でした。しかし、最近は米が余っており、農業関係者は販売に力を入れておられます。ちょうど京都の清酒メーカーは京都産の米をもっと使って「京都の米で作った酒」とアピールをしていきたいと考えています。「祝」「京の輝き」は充分利益の出る米ですので、積極的に作っていただければ我々にとってもたいへんありがたいことです。
この2~3年は清酒業界からの申し入れもあり生産者側も「祝」をたくさん作ろうという動きになってきました。最近は農家への指導活動を農協や京都府の職員さんが進めておられて、だんだんと増収が計られつつあり、そういう面でも期待しております。

日本の伝統産業と農業の未来日本の伝統産業と農業の未来

古本強教授

龍谷大学農学部植物生命科学科
古本強教授の回答
酒を学ぶ、酒を知る

「祝」という品種を植物生理学者の僕は知らなかったわけですが、心白が80%を越えていると聞くと糖代謝はどうなっているのだろうとかなど、自分の分野の興味が拡がります。日本酒のこと、「祝」のこと、これらを1つ勉強するだけで、その後ろにたくさんの人、たくさんの生物の手がかかっていることを学べる。そういった驚きを伝えていきたいですし、日本酒を飲む機会があれば飲みましょう、消費量を上げていきましょうと自然と思えるような教育をしていきたいと思います。「祝」の生産現場に携わるような感じで研究者としてやれることはあるでしょうし、自分の中にもっと取り入れていく余地があると感じました。

猪谷富雄教授

龍谷大学農学部資源生物科学科
猪谷富雄教授の回答
米作りから食文化まで~オペラ『白壁の街』(西条)~

私が住んでいた東広島市西条町というのは、なまこ壁が美しい「白壁の街」と言われおり、JR西条駅のまわりに8つほど酒造メーカーがあります。ここでは毎年、「西条酒まつり」が催され、地元小学生によって創作オペラ『白壁の街』が上演されます。これは西条町の小学校の先生が作ったオペラで、内容は“西条の酒造のもとで蔵人たちが寒い冬に苦労して美味しい日本酒を作る”というもの。他にも1000を越える酒造メーカーの日本酒の試飲、子ども神輿や女性神輿など様々なイベントが企画され、酒まつりはどんどん大きくなっています。こういったイベントを通して、いろんな方に日本酒を学んだり、作ったり、楽しんだりしていただく。日本文化の原点の1つとして、日本酒の発展に取り組んでいければ良いのではと思います。

香川文庸教授

龍谷大学食料農業システム学科
香川文庸教授の回答
せめて和食の自給率向上

戦後、日本人の食生活は急激に変わりました。しかし、お米と水田を中心として日本の農業は何千年もかけて形成されてきたものなので、そんなに簡単に対応できない。海外で作って売っているものを日本で安く効率的に作るためには時間がかかります。消費者の方はそれを待っていられないので、てっとり早く輸入をしようという話になってくるわけです。今の日本の食品自給率は39%くらい。これを100%にするのは到底無理でも、せめて和食に関しては自給率を上げることを私たちは考えていかなくてはならないと思います。それには今回のテーマで語られた「国産の酒米によって美味しい日本酒を作りましょう」という取り組みを他の伝統食産業に広まるような体制を作る必要がありますし、消費者の方に少しでもそういう意識を持ってもらえるよう働きかけることも重要です。

山崎英恵准教授

龍谷大学農学部食品栄養学科
山崎英恵准教授の回答
文化:行動と思考
嗜好と志向

民族学博物館の桜井先生は「文化というのは人の行動と思考によって形成されていくものだ」と語られました。その通りだと思います。行動と思考のうち、思考をキーワードとすると、思考を継続するには食文化にとっては嗜好、人々にとっては志向・オリエンテーションが必要です。嗜好を形成する食育もそうですが、「大人になったら和食を楽しみ日本酒を飲みたい」という食文化をその子自身持っていることが必要ですし、それは志向の形成にも非常に関わってくることだと思います。つまり、人々の日本食志向という考えのオリエンテーションも非常に重要なのではないかと。それらを大事にしていくことによって、農業の問題や日本の伝統産業の未来に明るく向き合えるのではと考えています。

若井芳則氏

黄桜株式会社 専務取締役
若井芳則氏の回答
農業の安定と清酒の拡大

現在、米農家の平均年齢が67~68歳と相当な高齢になっています。また、長く続いた減反政策ですが、平成29年で生産調整が終わりになると聞き、今後農業や米がどうなっていくのか非常に懸念しているところです。今年も米の価格が下がりますし、来年米農家はどうやって米を作っていくのか。心配は尽きません。農業の安定というのは、清酒だけではなく、日本人の今後の食生活にとってたいへん重要な問題です。あわせて、清酒メーカーの一員としては、清酒を拡大したいということを常々希望しております。

トークセッション Q&A <当日回答>トークセッション Q&A <当日回答>

いいお米を作るために酒造メーカーがしている米農家へのサポートとは?農家さんにも酒造メーカーさんにもリスクがある部分で、お互いがどのように共存していくのか疑問に感じたので質問させていただきました。

農家の方は継続性を考えておられるのではないかと思います。ですから安定的に取引を続ける・継続するということが1つ大事なことではないかと。価格面については、直接お話するのではなく全農さんや酒造組合を通してやり取りをしておりますので、それはメーカー単位でできることではありません。ですから、メーカーができるのは継続的なおつきあい、つまり購入を続けること。そして、品質で気になる面があればお話する、良いところがあればお伝えするといった交流を続けることではないかと思っています。【黄桜株式会社 専務取締役 若井芳則氏回答】

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